エゴイスト・マージ
三塚……

いつも笑っている印象で
感情的な言動とか一回も
見たことは無いし。

女子から囲まれたりしてるのは
たまに見かけるけど。

だからといって誰か
特別親しげにしてるのも
見たことは無い。


……ただ
人当たりはとてもソフトなんだけど。

一方では、
何かと噂の多い先生で
その殆どが女性関係に特化していた。

常に違う女と付き合ってるとか
女と一緒にいるのを
見かけたという類が絶えない。

その実、何処まで真実なのか
分からない謎多き先生で、
そこが魅力なのだと
誰かが言っていたっけ。

……確かに見た目かなり格好良い。

やさしいしモテるのかもしれないけど
なんでにそんなにも、
人気があるのか正直
私にはよく分からなかった。

だいたい女の噂が絶えずあるとか
情操教育上、問題じゃないのかと不思議。
噂が噂の域を超えてないから
学校側も黙認してるのかな。

先生だって人間なんだから
ヤバイ犯罪とかに
手を出してるんじゃなきゃ、
正直プライベート
何してても誰も文句を言われる筋合い
ないんだろうけど。



やっぱ噂に尾ひれ付きまくりってこと?

どっちにしろ私には関係がないコトに
変わりない。

というか他の先生と明らかに違って
三塚という存在がなんとなく苦手で
授業以外で特に接点を持とうは思ったことがなかった。



 
「あ、あたし見てないし聞いてないし
……えとえと」


身を隠していた隙間から這い出て
開口一番そう口にした。



「何を?」


三塚が穏やかで、微かに笑っての問いに
私は墓穴を掘ったことに気が付いた。

余計なこと言わずに、
さっさと逃げれば良いものを
わざわざ……

私が更に意識を迷走させていると
不意に真上から笑う声が漏れた。

「へーそんな顔もするんですね」

「は?」

「月島って何時も僕を見る時、
醒めた目つきで見てるから
こんなにクルクル表情が
変わるイメージがありませんでしたよ」


「大方ノートでも忘れたんでしょう?
気をつけて帰って下さい」

頭の上に置かれた手に
私は動けなくなってしまった。


「月島?」

三塚の声に弾かれて我に返る。

「帰ります」

そう投げやりに告げて
慌てて教室を飛び出すことで、
ようやく違和感からの
脱出に成功することが出来た。


何だったんだろう?
……あの感じ、不思議な感覚。



私は飛び出した背後に
視線を感じながら
何故、走っているのか、
何故泣きそうになってるのか、

訳分からなくなってなってしまった。


……この時の私は未だ何も、
本当に何も知らなくって
全てのベクトルが
生み出す感情も痛みも罪すら

何もかも。


そのまま全部知らずにいたら、
……未来はどんな風に
変わってたんだろう。


今でも時々そう思うことがある。





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