エゴイスト・マージ

女医


生憎、保健医は今日は出勤してなかったはず。

月島は今腕の中にいる。
倒れたといっても意識が無いわけでもなく
気を失ってるだけ、以前と同じように思えた。

このまま、気が付くのを待つという方法もあるが、
こう頻繁に倒れるということは、
何かしら疾病があるかもしれないと
考えるべきだろう。

コイツのカバンを探ると、カード入れの中に
クリニックの受診票を発見した。

―――これ一枚か。



クリニックに月島を抱えて運び込む姿に
看護師が慌てて受付から出てきたが、
コイツの顔を見るなり、安堵した表情に
変わった。

どうやら此処で正解だったようだ。

暫く、病室の前で待っていると
女医と思しき女が部屋から出てきた。

顔を上げ俺を見た顔が、みるみる驚きに変貌する。


「三塚くん?」


「覚えてない?高校の時一緒だった緒方よ」

記憶に全く引っ掛かりが無い。

「覚えてるよ、勿論」

「そういう心にも無いウソを
サラリと付くの相変わらずね」

クセづいた笑い顔で応えると女は同じように
見え透いた笑顔でそう言い返してきた。

……ああ
この表情見覚えがある。

いたな、そういえば。

今、ようやく思い出した。

緒方……
なにかといえば良くつっかかって来たあの女か。


つまり今、目の前にいる元同級生の女は、
どうやら月島の担当医ということらしい。

緒方は周りの看護師に目をやって
場所を変えましょうと俺を促してきた。


「月島さんのどういう知り合い?」

「高校の教師」

緒方は俺を訝しげな目つきで見上げてくる。

「……それだけだよ」

「どうだか。
貴方が女性にだらしないのは知ってるわ。
教え子に手を出さない保障は何処にも無いもの」

「随分な言われ様だ」

肩をすくめおどけて返すと
女はあからさまに眉をひそめた。

(ヤレヤレ……)

「月島の容態を教えてくれない?」


「……別に身体は大丈夫のようだけど」

らしくない言い回しに口を挟む。

「というと?」

「言葉通りよ。これ以上は話せない。
患者のプライバシーだから」

”プライバシー”

実に便利な言葉だ。

その曖昧な意味合いを持つ言葉を盾に、
彼女は梃でもその先を
言うつもりは無いらしい。

「第一、家族でもない一介の教師に
話すわけないじゃない。
私には守秘義務があるのよ」

「じゃ、恋人だと言ったら?」


「…………」


僅かに動揺をみせた目に
ここは敢えて気が付かないフリをする。


「ありえないわね」

そう言っておいて、やや考え込んだ後、

「やっぱり言わない」

言わない?言えないではなく?
その微妙なニュアンスが引っかかった。

「分かった。僕は帰るよ。
何かあったら知らせて」

女の様子からこれ以上を情報を
得られないと分かった以上、
不毛な時間の浪費は無駄だと判断した。

俺はその日、結局月島の顔を見ることなく
帰宅することになった。

後日調べて分かった事は、
もともと緒方の親が担当医であったのを
緒方が医師になってから引き継いだという話だ。
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