エゴイスト・マージ

「……音、雨音」

「あ、な、何?」

声が聞こえて慌ててその方向に
顔を向けると、裄埜君はほんの少しだけ
口角を上げた。

「何でもないよ。
ホラ、もうすぐ電車来るよ」

「わ、待って」

先に改札口を抜けて行く裄埜君を
カバンを持ち直して慌てて追う。

雨のせいか何時もより駅構内に
人が多く、その混雑ぶりは酷がった。

「痛っ」

今、誰かにぶつかった。

「スミマセン」

(ううっ、何で今日こんなに人いるの?)

前屈みになって起きようとするのも
ままならないって、どれだけ凄いラッシュ?

「こっち!」

人混みから手を差し出され、それに
掴まって漸く立ち上がる事ができた。

「大丈夫?雨音」

裄埜君は私の手を握ったまま

「危なっかしいな」

と、苦笑いしてた。

「ごめん、こんな人が多い所
苦手でいつもぶつかったりするの」

そう言うと、君らしいともう一度。


「なんか近くでコンサートとか
あるみたいだね。そんな感じだ」

言われてみれば、何かしらのアーティストを
思わせるような格好をした集団が
あちらこちらに見られ、それがラッシュと
相まってこの構内膨張の要因となっている
のは間違いなさそうだ。

「もう少し先の方で電車待とう」

手を離すことなく移動する裄埜君に
ついて行きながら、その手の感覚に
デジャヴを感じた。

(花火の時、先生とこんな風に手を
繋いだんだっけ、あの時のお面……)

思い出したら笑えてきた。


「ここら辺……」


その声で顔を上げた瞬間、
裄埜君と目が合った。

(え!?)

頭が真っ白になって、自分が今
キスをされてるという事実に気が付くのに
数秒は掛かった。

「ん……っ」

息継ぎの声で、肩に置かれていた手が
バッと離され、呆然としている私の
目に入った裄埜君の顔は、
驚いた顔で、それまで見たこともない位
真っ赤になっていた。


あまりに突然の事で固まっていたけど、

「今の高校生はこんな所で、全く」

「よくやんなぁ、スゲ」

等とザワザワ声が耳に入りだして、
漸く私達の周りの人達が興味津々で
見られている事に気が付いた。


「もっと……向こうに行こう」

「…………う、うん」


「えー続きやらねぇの?」

はやし立てられたり笑い声が聞こえる中、
とてつもない恥ずかしさに見舞われ
私達は足早にその場を離れた。

今度は手を繋ぐこともなく
先を早足で歩いている裄埜君が
前を向いたまま、喋ってるのが
途切れ途切れに聞こえる。

「不可抗……だよ」

「…………」

「さっき見上げられた時……
顔……あんまり可愛いか……たから、
たまら……くなっ……思わず」

「…………」

「ゴメ……っ。
なにやっ……んだか……」


何をどう答えればいいっていうのか
私の頭なんかでは、とても処理できなくて、


頭を必死に横に振るだけで精一杯だった。


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