エゴイスト・マージ

「よう!ねェちゃん。
授業終わったんか?」

校門から出た途端の背後からの声に
身体が少し浮く。

「蔦さん」

「今日は醒ちゃんとこ
行かんかってんな」

蔦さんはニコニコ笑いながら
近寄ってきた。

相変わらず職業は何だろうと思わせる
パーカーにカーゴパンツ
という組み合わせの超ラフな格好。

この前は革ジャンと白っぽい
ダメージジーンズで
やっぱりおおよそリーマン系とは
言い難い格好だった。

前にちょっと触れたけど上手く
かわされてしまったし。


……な、謎過ぎる。





そしてまたしてもこんなトコで
立ち話をしていると他の生徒達からの
視線が痛い。

蔦さんも気づいたらしく苦笑になった。

「あ、ごめんな、
前に注意されたやったな。
お茶でもいかへん?近くにサ店あるやろ」



頼んだトリプルベリーパフェを
口に運びつつ、

「先生に会いに来たんですよね?」

「ま、そんなトコ」

蔦さんがそれ以外にうちの高校に
来る理由はないから我ながら
馬鹿な質問をしてると思うんだけど
何だか何時もの様に蔦さんが
喋りまくる感じがなくて
時々こうやって無言の時間が訪れる。

「なぁ。あの子、怪我したんやて?」

あの子?あの子って?
どうしよう……話が見えない。

「ホラ、ねーちゃんを何とかっていう
病院に送っていった子や」

「何で蔦さんがそんな事、
知ってるんですか?
もしかして先生から?」

「いや、醒からは一言も」

「じゃどうして?」

「風の噂」

そんなに大事になってるの?
警察も動いてるし当然といえば
そうなのかもしれないけど。

でも未成年者って事で個人情報は
出回ってないはず……ネット?
あの日、駅には沢山の人がいたし
スマホとかで動画とか撮ってる人が
いたりしたら素性も……どうしよう。

「あーゴメン、いらんこと聞いたな。
心配せんでエエよ、周知やない。
俺の情報網が特殊なだけや」

「特殊?」

「そそ」

その次を期待してるって
絶対分かってるくせに、決して
その先を教えてはくれない。

「醒の反応どうやった?」

「先生、ですか?」

何故そんな事を聞くんだろう?

「どーでも良さげでしたよ。
もーホント信じられない。
自分の―――」

弟なのにと言いかけて慌てて口を噤む。

「そっか……やっぱ
知ってんのやな、アンタ」


蔦さんの言葉にギクリと
身体が強張る。

「知ってるって?何の事ですか?」


「ねーちゃんが口に出すのを躊躇う
その事実の事や。

……醒は何も知らへん、今のは
アンタにカマかけただけ」


それを蔦さんは何故知ってるの?


「……蔦さん?」

「ああ、悪いな。これも特殊な筋からや」

「誤魔化さないで下さい!
何を何処まで知ってるんですか?」

思わず立ち上がって大声で
叫んでいたようで周りがジロジロ
興味津々でこちらを見ている。

「まぁ、座り」

「あ、スミマセン……」

おずおずと腰を椅子に沈める。

「今、俺が話さんかて
いづれ全部分かる時が来るて。
俺じゃなく当事者達からの方からな。

というか、既に大分
聞いてるみたいやけど?」

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