教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
声が出たのはその数秒後だった。


「翔君…」


そこにいたのは3年ぶりに再会したいとこ、神沢翔だった。


「聖教大学、生物学科から来ました神沢翔です。よろしくお願いします」


まわりを見ると、また女の子達がきゃあきゃあと興奮している。


知っている人だからか、一緒に騒ぐ気にもならず、あたしは翔君に視線を戻した。


流れるようなストレートの漆黒の髪、どこか知的に見える黒縁のメガネ。


そして涼やかでキリッとした顔立ち、森田先生と同様、すらりと伸びた背丈。


そして凛として透明で透き通った声。


全然変わってない。


3年という年月をまったく感じさせなかった。


で、翔君はあたしに気づいてないのか、あるいは無視してるのかはわからないが、こっちを全然見ようとしてくれない。


まったく、一体何なんだ。


おーい、神沢翔くーん。


こっち向いてー。


…なんて念じてみたけどやっぱりダメだった。


あっ、今こっちを見た。


とりあえず手でも振ろうと思ったら、ぱっと華麗に目を反らされてしまった。


なぜ目を逸らす?


しかも逸らし方がプロ並だったし。


やっぱり気まずいのかしら。


見かけはまったく変わってないのに、翔君の今の行動であたしは3年という年月を嫌でも感じることとなった。
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