教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
「はぁー…」


家に帰ってもまたため息がもれる。


ため息は部屋にむなしく消えていく。


「就職かぁ。なんかお金のためだけに仕事をするのって、あまりいい感じがしないんだよね。時間がかかっても、やっぱり生き甲斐を感じるような仕事に就く方がいい。でも来週までに決めるなんて無理だよ…」


ぶつぶつ言っているが、自分の部屋なのでもちろん誰も聞いていない。


「誰か助けて…」


そうは言っても、自分でも誰に助けてほしいのかわからない。


ただ救いの手だけを求めていた。


この状況から救ってくれさえすれば、それが例え猫でもミジンコでもいいのだ。


「先生がいればなぁ…」


そこまで言ってはっとする。


先生に頼るのはおしまい。


これからは1人で生きていかなければならない。


もうあたしの隣にあの人の姿はないのだ。


「…」


あの人のことを想うたびに寂しくなる。


いつも当たり前のようにそばにいてくれたから。


付き合ったのは1ヶ月。


最後の会話から10ヶ月。


なのにまだあの1ヶ月間が夢のように美しい。


あの日々が輝き過ぎて、今では光すら失っているように思う。


恋って何なの?


こんなに苦しむ必要があるの?


例えあるのだとしても、あたしはその苦しみに何の意味も見出すことが出来ない。


だからなのかな。


少女マンガみたいな展開に嫌悪感を覚えるのは。


主人公がイケメンの男子と出会い、恋をする。


色々あってその男子から告白され、2人は付き合うことになる。


まわりから嫉妬などが混じった視線を送られても、別れの危機にさらされてもなんとか回避して。


そしてやっと幸せになると思えば男子は病気になったり、事故に巻き込まれたりして命を落としていくのだ。


もちろん、一概には言えるはずがないのだが、あたしはそういうのは嫌気がさす。


恋なんてそんなに上手く出来ていない。


しかも病気などで最愛の人を失うなんて考えるだけで嫌である。


会えないだけでつらいのに、一生会えなくなってしまうなんて。


いかにも「読者の皆さん、泣いてくれ」という感じだ。


二次元の世界とはいえ、どうしてそんなに簡単に人を殺せるの?


そんな考えを持つようになってしまったのだ。


あたしはひねくれている。


昔はそんな話をわくわくしながら読んでいたのに。
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