教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
家に帰ってテレビのある部屋に駆け込む。


だいぶ終わりの方になっていたが家族が録画しておいてくれたので、終わってからそれを見ることにした。


ドラマの一番始めのシーンは主人公、金沢郁真演じる人気アイドルの風野一馬(かざの かずま)のアップだった。


実は、あたしがこのドラマを見ている一番の理由。


それは風野君目当てだ。


ドラマのストーリーや構成、BGMも素晴らしいのだが、何より風野君のスーツ姿にやられた。


似合いすぎてまるでスーツを着るために生まれてきたみたいだ。


でもやっぱり森田先生の方が似合っているかな。


先生への気持ちは自分の好きなアイドルを上回るんだからね。


でも…。


「キャー!風野君、カッコいいー」


今は目の前の風野君にメロメロだ。


黒髪を風に揺らし、スーツ姿で涙を流すシーンは卒倒しそうになった。


…なんてことを翌朝先生に言ったら、風野君に対抗意識を燃やして「ほら、俺の涙も美しいだろう」とばかりに泣き始めてしまったから、さぁ大変。


おかげで泣き止ませるのにかなり苦労した。


一段落してあたしはこんなことを言った。


「すごいですね。あたし、演技で泣けないんですよ」


すると先生は言う。


「お前が他の男にメロメロになると思うと涙も出るさ」


朝っぱらからそんなあたしを悩殺させるようなセリフ言わなくても…。


だから今日、あたしの頭の中は先生ばかりなんだ。


いっぱいになりすぎて、現代文の時間、小説読解のポイントの説明をする先生の声をバリアしていた。


森田先生め、恨むわよ!
< 91 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop