『短編』甲子園より、愛をこめて
夏休みに入っても、わたしは図書室通いを続けていた。
家だとどうも受験勉強をさぼってしまいそうで。
それに、学校に来れば、練習する彼の姿を少しでも見ることができたから。
彼は今日も真剣なまなざしで、一球一球丁寧に投げ込んでいた。
野球部員が練習する傍ら、マネージャーの女子たちがお茶の用意をしている。
彼女たちはわたしよりずっと近いところで彼を見てきたのだから、わたしの知らない彼をたくさん知っているんだろうな。
わたしなんて、同じクラスでたまたま席が前後なだけ。
こうして遠くからひそかに応援することしかできない。
滴り落ちる汗を拭う彼の仕草に、胸がきゅっとした。