誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~


これはもう、偶然なんかじゃない。



きっと……



彩が運命感じて立ちすくんでいる間にも、刻々と世界は動いていく。



―大変お待たせいたしました。只今、ホームに電車が到着いたします。お急ぎのところ申し訳ありませんが、二列に並んでお待ち下さい…



「若松さん、ぼーっとしてないで。ほら、乗りますよ」



「えっ……は、はい」



いつの間にか背後にいた敬に、肩をポンと叩かれ、彩は慌てて列に並んだ。



うわっ。



ようやく到着した電車の窓から見える車内はすでに超満員。



ドアが開いて降客はパラパラ。



覚悟を決めて、何とか車内に足を踏み入れるや、次々となだれ込む乗客に押され、奥へ奥へと流されていく。



「キャッ」



勢い余って、座席シートに倒れそうになった彩を、吊革のパイプに手をかけた敬が身をていして守ってくれる。



「大丈夫ですか?」



「あ、はい。何とか…」



ナイトに守られたお姫様気分に酔いしれているのも束の間、電車が揺れる度に二人の密着度が増していく。



ヤバい…




< 45 / 116 >

この作品をシェア

pagetop