プリズム
ー今、札幌は一年で一番過ごしやすくていい時期よー

絵理香は妊娠を伝えた時、電話口でそう母が言っていたのを思い出した。


ーそうだ、閃いた。

札幌の母のところに旅行を兼ねて行こう、と絵理香は思いついた。

虫歯の治療もそうだけど赤ちゃんが生まれたら、当分旅行など行けない。

翔と礼央の三人の思い出を作りたかった。

夜、会社から帰ってきた翔に相談すると、翔は眉をひそめた。

「お腹に子供いるのに、飛行機はまずいんじゃない?いくら安定期だからって。」
「大丈夫!すごく調子がいいんだから。赤ちゃんうまれたら、旅行なんて出来ないよ。」

絵理香は手を合わせてお願いのポーズをした。

「でもなんかあったらまずいじゃん。」

「妊婦だからって大事にしすぎたら、返ってダメなの。まだ礼央を私のお母さんに紹介していないよ。無理のないプランにするから。お願い!」

絵理香が食い下がると翔はしぶしぶ了解してくれた。


旅行の日程は札幌に住む絵理香の母に会ってから、駅前でレンタカーを借りて、小樽、洞爺湖を巡る二泊三日。
翔と相談して決めた。



夏休み前だが、羽田空港には、子供を連れた家族連れの姿があちこちにいた。

絵理香は少し膨らんできた腹を摩りながら、お腹の子供に
「これから旅行に行くよ。いい子にしてね。」と語りかけた。

空港でも礼央は、翔のそばを離れない。

翔は休みの度に絵理香達をいろんなところへ連れて行ってくれたが、三人でいる時、礼央はいつでも翔にべったりだった。
それでも絵理香がいじけなかったのは、翔が限りなく絵理香に優しかったのと、絵理香が良い意味で「諦めて」いたからだ。
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