出会う前のキミに逢いたくて
まともに話をするのは初めてだった。


近所付き合いは皆無といっていいほどない。


「2年ってことは、私のほうが少し先に入居してるわ」


ショルダーバッグを右から左に持ち替え、わたしの顔をちらっと見た。


わたしは進行方向右側を歩いている。


彼女は左側。


バッグが右にあるとわたしとぶつかるから持ち替えてくれたみたいだった。


駅までの道すがら、彼女はわたしとがっつり会話するつもりでいるらしい。


少し気持ちが萎えた。


マサキのことで気分はどん底状態だ。


悪いけど、人と話す元気なんてぜんぜんないよ。


だが。あいにく彼女はとてもおしゃべりだった。


次から次へと一方的に話し続ける。


適当に相槌を打てばすむのが救いだった。


駅で別れるまでの10分間、彼女の口は動きっぱなしだった。


けど、人自体はよさそうで、話していて苦ではない。



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