出会う前のキミに逢いたくて
彼女は両手に大きなビニール袋を提げていた。

今まさに、ゴミを出しにいくところらしい。

袋は二重にくくられ、几帳面な性格をうかがわせている。

「こちらこそよろしくね。引越しはもう落ち着いたんですか?」

彼女はドアのほうを向き、カギを差し込みながら横目で尋ねた。

表札に「村上」とある。

ホームセンターなんかで売ってるちゃんとしたものじゃなく、厚紙の裏に手書きした簡易のものだ。

厚紙の端っこは微かに薄茶色に変色。

最近越してきたばかり、というわけじゃなさそうだ。

間取りはうちと同じのはず。

だから夫婦で住むほどのスペースはない。

九分九厘、独身だろう。

「はい、何とか。でも、もともと物が少なかったから楽でした」

オレはポケットに両手をつっこんで廊下を歩き始めた。

同じタイミングで彼女も歩き出す。
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