出会う前のキミに逢いたくて
一刻も早く部屋に戻りたかったけど、村上さんが話したげな目でこっちを見る。

もしかしたらマヤの新情報が聞けるかもしれない。

喫茶店のマスターはまったく役にたちそうにないもの。

彼から有用なことを引き出すのは明らかに不可能だ。

それに比べると、村上さんが持つ情報のほうが断然、頼りになりそうだもの。

というわけで、しばらく彼女の世間話に付き合うことにした。

子供が風の子ならば、二十歳のオレも風の子とまではいかなくとも、風の孫くらいにはなれるだろう・・・などという、意味不明の論理を自分に言い聞かせて。

「そういえば、この間、お会いしたときにボクの隣に住む女性のことをおっしゃってましたよね?」

これ以上ないというほどのさりげなさで、自分から口火を切った。

「ああ。牧田さんのこと?」

「そうです。牧田マヤさんのことですよ」

「あら、あの人、下のお名前、マヤさんって言うの? 知らなかったわ。表札には苗字しかないから。初耳だわ~」

や、や、やばい。

つい余計なことを口走ってしまった。
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