蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
六章
1.心配性な兄妹
9月下旬。
組合旅行の前日。
絢乃はリビングで、慧とともに荷物の山を前に格闘していた。
「・・・だからっ、浮き輪なんて要らないってば! 遊泳する時期じゃないでしょっ」
「でも旅程では、浜辺に行くことになってるよ? いつサメに海に引きずり込まれるかわからないだろ?」
「映画の見すぎだって! そんなことになったらそもそも浮き輪なんてイミないよっ」
絢乃は叫ぶように言い、頭を抱え込んだ。
目の前には、どこから出してきたのかわからない様々な雑貨が積み上げられている。
昼間、絢乃が会社に行っている間に、慧が旅行に必要そうなものを出しておくと言ってはいたが・・・
この荷物の山から本当に必要なものを選別するのは骨が折れそうだ。
というか。
「慧兄、いつもの服はダメだからね? ちゃんとした服を持って行ってよ?」
「え、なんで? この方が動きやすくていいのに」
「ダメッ! 変質者は参加できないのっ!」
絢乃の言葉に、慧はうっと息を飲んだ。
「・・・ひどいな、アヤ。そこまで言わなくても」
「とにかく! 参加したいならちゃんとした服! これは絶対だからね?」