蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】




「ああ、だめだよ、そっちのはまだ焼けてない」

「そうか?」

「貝には腸炎ビブリオや大腸菌といった細菌が付着している。お前が当たるのは構わないけど、アヤを食中毒にするわけにはいかないよ」

「・・・・・」

「どれも1分以上強火で加熱すれば死滅するから、ちゃんと火を通さないとね?」


言いながらハマグリに菜箸を伸ばす慧の向かいで、雅人が驚いたように慧を見た。

その片手には、日本酒が入ったグラスがある。


「・・・こういったことに詳しいんだな、君は」

「この手のことに限らず、様々なことに詳しいですよ。・・・こいつは最高学府を出てますからね。しかも法学部の主席だから、日本最高の頭脳と言ってもいい」


横から卓海が口を挟む。

雅人は目を見開き、まじまじと慧を見た。


「・・・そうだったのか。驚いたな」


その、心底驚いたといった表情。

雅人の横顔をちらりと見、卓海は楽しげに少し笑った。


「こいつは個人事業主なんてのをやってますが、弁護士資格も持ってるんですよ。しかも取得したのは大学三年の時。なんで弁護士にならなかったのか、甚だ疑問なんですがね」


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