蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】



───見ると。

パンプスのヒールが、根元からぱっきりと折れている。

どうやら衝撃で折れてしまったらしい。


「・・・っ・・・」


絢乃は右足首に広がりつつある痛みに顔をしかめた。

・・・どうやら、ちょっと捻ってしまったらしい。

しかし、ここにいては通行人の邪魔になる。

絢乃はとっさに折れたヒールを取り上げ、エスカレーターの脇の方へとよけた。

そのまま足を引きずりながら、人目につかない場所に移動しようとした、その瞬間。


「・・・っ!?」


ふわっと体が浮き上がり、絢乃は息を飲んだ。

・・・視界が、高くなる。

はっと振り仰いだ絢乃の顔のすぐ上に、慧の顔があった。

絢乃の背と膝裏に、慧の腕が回っている。

───これは一般的に、お姫様抱っこというやつでは・・・

青ざめた絢乃を抱えたまま、慧は大股で歩き出す。

その表情は硬く、険しい。


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