蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】



『グランツ・ジャパンの社長にはわしから話をしておく。お前は北條に戻る準備に取り掛かれ』

『・・・・』

『あと、これは博人からも話が行っていたと思うが、来年の役員会の前に身を固めておけ。可能なら、一か月後の取締役会までに婚約まで済ませておいた方がいいだろう』


淡々とした口調で祖父は言い、ベッドに横たわった博人に視線を向けた。

・・・昏々と眠り続けている、父の姿。

雅人はぐっと手を拳に握りしめ、じっと父を見つめた。


───いつかは、と思っていた。

いつかはグランツを去り、北條グループに戻る。

そして、顔も見たこともない縁談相手と結婚する・・・。

けれどまさか、こんなに早いタイミングでそうなるとは思ってもみなかった。

それにグランツを辞めるといっても、雅人は第一開発課の課長だ。

物流システムはグランツ・ジャパンの基幹でもあるため、きちんと引継をしないと基幹業務に影響が出てしまう。

例え時間がなくても、引継だけはしっかりと行わなければならない。


病院を辞した後、雅人は会社に戻り、今後のスケジュールをまとめた。

取締役会は一か月後だ。

となると、その前にグランツ・ジャパンを辞めなければならない。

しかし辞める前に、引継の準備をする必要がある。

例え休日出勤してでも、引継の準備は抜かりなく整えなければならない。

───そして問題は、誰に引き継ぐか、だ。


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