蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】




「さて、今日のお題は。・・・貿易システムの仕様変更について、だね」


卓海は手元の資料をめくりながら口を開く。

卓海の隣には同じく第二開発課の二条香織が座っている。

香織は絢乃の同期で文系の大学を出ており、最初は総務部に配属されたが、二年目に本人の希望で第二開発課に配置転換となった。

その完璧な化粧とバッチリ塗ったネイルは一見、社内SEには見えない。

今は貿易システムのプログラムを担当しているらしいが、そもそも第二開発課に入ったのは卓海狙いだと専らの噂だ。

───もともと文系の香織と、根っから理系の絢乃では、まるで話が噛み合わない。

二人は同期ではあるが、話したことは片手にも満たない程度だ。


「まずひとつは、売上データを会計システムに流す部分の仕様が変わる。今は月次だけど、今後は日次になるんだ。これは経理からの要望でね・・・」


卓海は言いながら、ホワイトボードに手早く要点を書いていく。

仕事モードの卓海はキレ者という感じで、確かに格好よく見えないこともない。

香織の気持ちもわからないでもないが・・・。

絢乃は手元の資料を卓海の説明とともに確認していたが、ちょっと気になる点を見つけ、軽く手を挙げた。


「ハイ、絢乃ちゃん」

「あの。・・・日次になるなら、データの構成が変わりますよね? そうすると、会計システムに送る夜間バッチも、修正の必要があるんじゃないかと・・・」


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