神様修行はじめます! 其の二
門川君は無言のままその全てを見つめていた。

あたしも無言で身動きもしない。

沈黙の時間が、しばし流れる。


終焉の静寂。


その空間に、どこまでも喜びは無く。

喪失感に似た虚脱感が充満していた。

今までに失ってしまったもの。

そればかりが心の奥に去来する。


・・・とにかく終わったんだ。



あたしは動き出した。

赤ん坊がハイハイするように、ようやく彼の側までたどり着く。

床に頭をこすり付けるように脱力し、はぁっと息をついた。

彼は血だらけの姿で月を見ていた。


「一度だけ・・・」

彼の口からぽつりと言葉かこぼれる。


「一度だけ、母上とまともな会話を交わした事があった」



昔、まだ僕が幼い頃。

ひとりこの場所で、夜空の月を見上げる母上。


『ははうえ、なにをごらんになっているのですか?』

『永久か・・・』


白く細い指が月を指す。


『あの向こうに、わらわが行きたい場所があるのじゃ』

『いきたいばしょ?』

『全てを捨て去れば、行ける場所じゃ』


真っ直ぐに、どこか寂しげに・・・

月を見上げる目。


『行きたいのぉ・・・いつか、行きたいものじゃ』

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