幸せになろう
慎一は強がって見せた。
「そっか。宮原君、いつだって我慢強いもんね」
綾香はこらえきれずためた涙を拭いた。
「私、元気出た。宮原君から元気もらった」
綾香はそう言って最高の笑顔を振りまいた。
「宮原君、いろいろと、ありがとう」
「綾香ちゃんのこと絶対忘れないよ。気が向いたらいつでも遊びにおいで」
「私もだよ。またいつか、必ず会おうね」
ふたりはそう約束をした。慎一は去っていく綾香を静かに見送った。
「綾香さんとお別れ出来てよかったですね」
エレーナが再び現れた。
「私、少し離れた場所から見守っていました」
エレーナがもう一度大きな羽を広げ、まぶしい光が慎一を包み込んだ。

 やがて景色が変わり、気がつくと慎一は現在に戻っていた。そして体も元に戻っていた。
慎一がエレーナと自宅に入ろうとすると、後ろから呼び止められた。
「あの、もしかして宮原君じゃない?」
振り返るとそこに見知らぬ女性が立っていた。
「誰?」
「私の事、覚えていない? 私、以前この近くに住んでいて、ほら、子供の頃いつも一緒に遊んだでしょ。でも、親の都合で引越しちゃって……」
「もしかして、斉木綾香ちゃん?」
あの時の綾香と再会した。
「私の事、覚えていてくれたんだね」
「何で俺だって分かった?」
「宮原君は昔っからここに住んでいたよね。今、家に入ろうとしていたし。
それに、宮原君は昔と変わっていない」
綾香は懐かしくてたまらない。
「でも、どうしてここに?」
「私、またこの近くに住むことになったの。大学とか近いしね」
「そうだったのか。でも全然気がつかなかった」
綾香からしてみれば、十数年ぶりの再会かもしれないが、
慎一はたった今、子供の頃の綾香に会ってきたばかりだ。
そして今、慎一の目の前には、大人になったその綾香がいる。
慎一はすごく不思議な気がした。まるで浦島太郎になったような感覚だ。

「ところでそちらの女性は?」
「こちらは、エレーナ・フローレンス」
「エレーナさんっていうんだ。もしかして宮原君の彼女?」
綾香はエレーナが気になる様子。
「そういう訳じゃないんだけど」
「ふーん、じゃあ、友達?」
「まあ、そんなとこかな」

「エレーナ、ちょっといいかな?」
慎一は綾香から少し離れた場所でエレーナにそっと耳打ちをする。
「俺と綾香ちゃんを再会させたのも君がやったのか?」
「いいえ、私は何もしていませんが」
 
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