日常の奇跡
自分の奇跡
―――――数ヵ月後。



章子はスーツで都内某所にいた。

開放的なオフィスを見回す。


総合職として、某企業に就職を

した彼女は先月、無事大学を卒

業し、数週間の夢のような休み

を存分に堪能した後、本日より

社会人となった。

ここから、またはじまるのだ。

大学4年間は実り多いもので、

自分の今後の人生にも大きな

影響を与えるものになった。

恋もして、失恋もした。

勿論、勉強もした。

今日からは、今までとか違う。

社会の一員となったのだ。





新入社員には一人ずつにサポー

トをしてくる指導員がつく事に

なっていた。

仕事に慣れるまでしっかりみっ

ちりと教え込んでくれる頼もし

い先達だ。

特に、女性の社員が女性の新入

社員を教えるという区別はない

ようで、ペアは男女が程よく

混合されていた。

どんどんと新入社員の名が呼ば

れていく。

章子も無論、その中のひとりで

自分の名前を読み上げてくれる

先輩を待っていた。



「……春日井章子さん!

……………春日井さん!!」



「は、はい!」

社内中に響き渡らんばかりの

大声に驚き、章子も大声で

こたえる。





と、そこで彼女は何か違和感を

感じた。



いや、これは違和感ではない。

どちらかというと、既視感の

ような……。


そんなことを考えながら、声の

ほうを向くと、新入社員入り乱

れた人だかりからちょこっと頭

の飛び出る長身が手を上げてい

た。

長身は章子を見つけると人を掻

き分け、足早に彼女の前まで

やって来た。





その時点で、章子の思考は完全

に停止した。




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