夏の月夜と狐のいろ。
「ハッ、ハッ、ハッ・・・っう」
肺が、破裂しそうだ。
靴を脱ぎ捨てたあと、足から血がにじむのをも無視し森を目指して再び走った。
何度も自分に言い聞かせる―まだ間に合う、まだ大丈夫だ。
だが、森に近づいた瞬間、その言い聞かせは無意味になった。
ノエルは走りながら唖然として森を見上げた。
森が、赤く染まっている。
森につっこむと赤々とした炎があちこちにあがり、焦げ臭いにおいと熱気に包まれた。
わかりきったことだが、森はもうすでに燃やされていた。
ノエルはしばらく立ちすくんでいたが、すぐに再び走り出した。
シアンだけでも助けよう。シアンだけでもいいからつれて逃げよう―
そう思って森を進んだ。
しかしその瞬間、すぐそばでシアンの叫ぶ声と、それに続いて冷たい銃声があたりに響き渡る。
「そ・・・んな・・・」
すぐそばで、シアンが撃たれた。