夏の月夜と狐のいろ。


「ノエル…ほんとに、あの町に行くの嫌じゃない?」

シアンがおずおずと聞くと、ノエルは藍色の瞳を細めて微笑んだ。


「そんな心配、シアンはしなくていいよ?俺は別になんとも思ってないから」


ノエルはそういうとそのまま前を向いた。


その表情には、嘘は感じられない。


…よかった。ノエルは私の力になってくれようとしてる…!
嫌々ついてきてくれるわけじゃないのね!


シアンは嬉しくなってノエルのすぐ横に肩を並べて歩いた 。


シアンがにこにこしているとすでに人間の姿に化けたクロがじろりとこちらを睨んできた。



「ど、どうしたの?」



シアンが首をすくめて訊ねる。

けれどクロはぷいっと顔を反らしてさっさと歩いて行ってしまった。


…クロは相変わらずあんな調子で、機嫌よく笑っているところなんて見たことがない。


クロがよっぽど人間が嫌いらしい。
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