夏の月夜と狐のいろ。



シアンを助けにこの物見小屋に繋がる研究所に来た。

シアンを助けようとしたのに、結局は今シアンの尻尾に包まれて自分は足からの出血のせいで意識を失いかけていた。


シアンは、さっきから一度もこちらを見ないし、声もかけてこない。


ここからでは、その表情すら伺えない。



ただ走るシアンの尻尾の中で揺られ、その銀色に輝く背中を見ることしかできない。


ノエルはかすむ意識の中でさっきのことを思い出した。
ラシッドが冷たくシアンに言い放った言葉。それは。



自分にとってシアンに一番知られたくなかったことであり、一番話さなければならなかったことだ。



ノエルは、シアンの森を襲ったラシッドの手下の魔術師たちのもとで育ち、そして魔術を教えられた人間だ。


ラシッドがこれをばらした時、シアンは恐怖と驚き、そして怒りに満ちた目をしていた。



シアンは怒っているだろうか?

軽蔑しただろうか?



なんともいえない思いがノエルの中にじわじわと広がる。



―俺があの時、あいつらをとめることができていたら森は・・・シアンの大事な家は燃やされずにすんだのに。



ノエルはそこで意識を失った。

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