夏の月夜と狐のいろ。
―一時間後。
ノエルは見事に森の中で迷っていた。
奥にまで入りすぎたのだ。迷いやすいこの森はこのせいもあって危険だと言われている。
ノエルはため息をついてその場に座り込んだ。
いっそ、ここで死んでいってもいいな。
―・・・あんな荒んだ大人たちの傍にいるのはもう嫌だ。
そうしてしばらく途方にくれていると、どこからか声が聞えてきた。
「外に出してあげましょうか?」
これが、ノエルとシアンの出会いだった。
それからノエルは毎日森にかよった。
毎日の荒んだ生活で息苦しかった日々もシアンに会うときだけは癒された。
シアンは姿をみせてはくれなかったけれど、無邪気で、それでいて純粋な綺麗な心をもっている。
シアンと触れ合う日々だけがノエルの癒しになっていた。
そしてシアンと話しながら、うすうす思っていた。
この子はきっと、人間じゃない。だから姿を見せてくれないのだろう。
それでも、よかった。
むしろそれがよかったのだ。