猫と宝石トリロジー①サファイアの真実


彼が心底困った顔で頬の涙を拭ってくれた。

「私のこと……嫌いになった?」

「どうしてそうなる?」

「私がお嬢様だとしても、あなたに何かしてあげられる事はないかも知れない……それでも私を好きでいてくれる?」

美桜は勇気を出して顔を上げると、怒った顔の彼に引き寄せられてつま先立ちにされた。

「何かして欲しい等と頼むつもりはない!」

くそっ!そう言うことか!!

金持ちだと知ったら、俺が何か見返りを期待すると思ったんだな

ふざけんな!!

「そんな私……」

言い終わらないうちに思いきり唇を重ねられた。

苛立ちのこもった熱い唇が容赦なく美桜を急き立てる。歯をたてられて唇を開けさせられると彼の舌に絡みとられ熱く激しい欲望が二人の間を駆け抜けるのがわかった。

もう今日は健全なデートではなくなる、
そう思って身体を預けると、彼は唐突に身体を引き剥がした。

美桜は呆然としたまま絢士を見つめた。
彼は怒ってる……嫌われてしまったんだ。

「ごめんなさい……わかってる、あなたはそんな人じゃないって……」

また涙が込み上げてきた。

「俺は君の金に興味はない」

彼女の不安そうな顔を見た絢士は、怒りを吐き出すように深く深呼吸した。

次に美桜が顔を見た時には、いつものちょっと意地悪に笑う彼に戻っていた。

「だが、その他には興味がある」

サッと背中を撫で下ろした手がお尻の辺りで止まった。

「もう!」

冷たくなりかけた、美桜の心が柔らかく溶け出した。
こんなに忍耐強くて優しい人がいるかしら?

それに、こんな時に笑わせてくれる人も?


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