猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

割烹みゆき


繁華街とは少し離れた住宅地の入り口に
【割烹 みゆき】はある。

七階建てのマンションの一階。
薬局の隣に三店舗 並ぶうちのひとつ。

トリミングのペットショップとカフェの間にあり、
夕方になるとみゆきはのれんを上げる。

今から26年前……
みゆきは調理師免許を始め必要な資格と資金はあったのに、いざとなると踏み出す勇気が出せずにいた時だった。

それまで10年勤めたお店の仲間は家族で、あそこは自分らしくいられる場所だったから、夢はもっと年をとってから…そう漠然と思っていたんだけれど。

綾乃に絢士を任せて欲しいと申し出る為に店を開く決心がついた。

蕪と豚バラ肉の煮物を仕込み、ふと店内をしげしげと見渡した。

この店を始めてもう25年……
絢士の小学校を吟味して、それに合わせてここをみつけて開店したのが昨日のことのように思える。

随分と年季の入っていた店内を五年前、
20周年のお祝いに絢士が改装資金を出してくれた。

あの可愛かった絢士はもう30になる

ねぇ綾乃、あんたそこからみてる?

あたしが予想した通りあの子すごくいい男になったでしょう?
そろそろ、お姫様を見つけて私たちを安心させて欲しいわよね。

なによ、そうよ!

私だって人並みに孫の顔がみたいわよ。
もちろん、バアバなんて呼ばせないけどね。

みゆきはカウンターの内側に置いてある写真立ての綾乃に小さく笑ってまた手を動かし始めた。

< 82 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop