RUBY EYE
小野瀬に引き取られて、徹底的に教え込まれたのは、吸血衝動を抑えること。
殺意や敵意といった感情の高ぶりが、吸血衝動を引き起こす可能性があるから。
だから、小野瀬は何よりも厳しくしつこく、椿に教え込んだ。
そのおかげで、月野の香りにも、顔色一つ変えないのだが。
「椿、おいで」
アイスピックが、指先を掠めた。
椿は顔を上げ、腕を広げる小野瀬の元へ歩み寄る。
「お前は私の可愛い娘だよ」
「そう言うくせに、いつも厳しかったわ」
実は、吸血衝動を抑える特訓より、家事を叩き込む方が厳しかったんじゃないか、と思う。
ちょっとでもミスがあると、彼はすぐに叱るから。
「そうだったかな?」
父の腕の中は、いつだって椿にとっての揺り篭だ。
「―――お父さん」
椿は目を閉じて、小野瀬の心臓の音を聞いていた。