RUBY EYE
「兄さんは、どうして音無を捨てたんだろう?」
天井を見上げたまま、伊織が呟く。
美鶴は答えず、書類の束に目を通す。
「あの子が当主になったら、兄さんは戻ってくるかな?」
「月野が当主になることなど、万が一にもないわ。静貴がいるのだし」
美鶴の言葉に、伊織は小さな笑みを零す。
「言ってみただけだよ」
伊織は立ち上がり、大きく伸びをする。
「伊織。お前が最近、綾織の家に足を運んでいると聞いたわ。一体、何を企んでいるのかしら?」
美鶴が顔を上げると、伊織は楽しげに笑っていた。
「面白いものを見つけたから、ちょっとね。大丈夫だよ」
伊織はそう言うと、書斎をさっさと出ていった。
「はぁ・・・・・・頭が痛いわ」
早く、この重たい当主の椅子から下りてしまいたい。
そのためには、月野の力がどうしても必要なのだ。
美鶴はため息を漏らしながら、重ねられた書類に手を伸ばした。