エレーナ再びそれぞれの想い
頬づえをつき、脚を組み、横を向いたまま椅子に座ると、調子良くペンを滑らせるシュウをジロリと見たつめた。
かなり不満な表情だ。
やがてみんなの注目の下で絵が出来上がった。
絵のリーダーは、なぜかやさしい表情で笑っている。
リーダーは、絵を見るなり、
「何なの! これが私だっていうの! 全然似てないじゃない!」
「わー、ごめんなさい。やっぱりだめですよね」
なつみのあまりのけんまくにシュウは殴られると思ったのか、両手で顔を守る姿勢になった。
幽霊だから殴れる訳ないが……。
「僕、絵を描くときはその人を好きになるようにしているんです。
でないと、心から描きたいと思えないし、いい絵にならない気がするんです」
「突然、何を言い出すの!」
なつみが声を荒らげた。
クラスの連中が騒ぎだす。
「白川君って柚原さんが好きなの?」
噂話が教室中を駆け巡った。
なつみは、頭から湯気が出た。
状況をつかめないシュウはなつみに対し、さらにこんな事まで言った。
「それに、なつみさんにも笑顔でいて欲しいんです。いつも怒っているし」
クラスメイト達は、今度はなつみの噂話を始めた。
「そういえば、最近なつみって全然笑わなくなったよね。以前はよく笑っていたのに」
「やっぱり、白川君が来たせいかな?」
なつみの怒りは最高潮に達し、身を震わせた。
「余計な事しないで!」
立ち上がると教師の呼び止めにも応じず教室を出て行った。
ドアを激しく閉める音がフロア全体に強く鳴り響いた。

 一方、姿を消して教室でシュウを見守っていたエレーナも動揺していた。
シュウは本当になつみが好きなんだろうか? 
いつも、あんなにいじめられているのに。
「なつみさんを怒らせちゃった。僕、やっぱり余計なことしたのかな」
シュウは寮に戻ってくると、少し落ち込んでいた。
「そんな事ないですよ。クラスのみんなも喜んでくれたじゃないですか。
それにあの絵、すごく良かったですよ」
エレーナが励ました。
「でも、僕はやっぱり嫌われている」
シュウは、まだ気にしている。
「それに私、なつみさんに笑って欲しい貴方の気持ち、分かるような気がします」
エレーナは、シュウの両手を握った。
「誰だって、笑っていたい、幸せでありたい、そう願うものです。なつみさんだって……」
エレーナは、さびしげな表情になった。

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