君がいるから



   * * *


「んーっはぁー!!」

 上体を起こして早々、背中を大きく伸ばしながら息を吸って、豪快に吐き切る。

「今日もいい天気」

 窓の外へと目を遣ると、青々とした色が空一面に広がっている。ベットから降りて窓際へと寄り、空気を入れ替える為に窓ガラスを開け放った途端に、頬を掠めていく新鮮な空気を鼻から吸い込む。

「よしっ顔洗って着替えなくちゃ」

 蛇口から流れ出ている冷水を掌に溜めて、顔一面に浴びせる。いつもながら冷水に身が一瞬震えるも、呆けた頭はよく冴える。真っ白い柔らかなタオルで顔の水滴を拭い終えると、ふと鏡に映る自分の姿に動きを止める。自分の顔というよりも、左手中指に通された指輪の赤い石に目がいく。

「……はぁ」

 白い光と会ったあの日から数日――。私が元の世界に帰れる方法はまだ見つからず。それにあの日から指輪が光ることもなくなっていた。
 あの日、ジンに部屋へと案内してもらい着くなり、私がいないことに驚いたのかアディルさんが部屋から慌てて出てきた所に出くわして、ジンと私が一緒にいるのを目にして驚いた様子だった。何故かと問われはしたけれど、ジンが掻い摘んで事情を説明してくれて、そのままジンは自室へ戻ると言い残し去った。
 日々が過ぎゆく中、ほんの少しだけどここの生活にも慣れつつある。お城の中を探検したりして、道のりも徐々に覚えてきた所。迷う時も多々あって、そんな時はすれ違った騎士さんやメイドさんに聞いたりして。皆、嫌な顔一つせずに親切に教えてくれたり、付き添ってくれたりと本当に優しい人達でよかったなと心から思う。
 その中でも、アディルさんは仕事の合間をぬって、他愛無い話をしてくれていた。日々がそうしてごく自然に流れてく――。

 制服に着替え髪を整え、運よく鞄に入っていたメイク道具で準備を完了させた。

 コンコン

 タイミング良く、扉を叩く音が聞こえて足早に駆け寄った。

「はぁ~い」

 返事をしながら扉を開いて顔を外へと覗かせると、そこには思わぬ人物の姿が。

「ジン!!」

 小さく開いた扉が、自分の声と共に大きく開かれる。

「朝から元気だな。お前は」

 腰に手を当て、私の大声に顔を顰(しか)めるジンの声は少々呆れたような声音。

「あっごめん! ところで」

「あ?」

「どうしたの?」


< 168 / 442 >

この作品をシェア

pagetop