夜明け前


母様はどんな瞬間でも母親だった。


私とさくを一番に考えて、自分のことは後回し。


涙は見せなかった。


いつでも笑っていた。


本当は泣きたかっただろう。


誰かに縋りたかっただろう。


それでも母様はくじけなかった。


強く、凜とした美しい人。


生き方を、人生を、生涯の中で母様は私達の心に刻み込んだ。


私達は母様の愛を、強さを、優しさをたくさん受け取ったよ。


だけど母様がいなくなってきっと、怖くて不安で、泣き疲れて、立ち止まって動けなくなるだろうから。


それでもいつか、きっと前を向いて歩いて行くから。


母様、あなたのようにいつも笑っていられるように強くなるから。


自慢の子だと、宝物だと言ってくれたその言葉どおりに、母様に恥じないように、胸をはって生きて行くから。


…だから今は、涙が枯れるまで泣いていいかな。


世界で一番愛する母様を想って。


< 50 / 145 >

この作品をシェア

pagetop