黄昏バラッド
私は鉄さんの言葉に甘えて、家路への道を歩いていた。
私の気分はまだ晴れない。むしろ歩く度にどんどん沈んだ気持ちになる。
まさかこの街で知り合いに会うとは思わなかった。
考えてみれば都会だし若い人たちの街だから買い物に来てても不思議じゃない。……でもこんなに広い街で、しかも同じ学校の人に会わなくてもいいじゃん。
神様ってやっぱりすごく意地悪だと思う。
〝麻耶の親も大騒ぎで警察に捜索届け出すとか言ってるし〟
……当たり前か。
娘がなにも言わず、しかもなにも持たないでいなくなったんだから。
もし本当に捜索届けを出されたら、きっとすぐに見つかると思う。そしたら私はまたあの場所に連れ戻される。
知り合いにも会っちゃったし、べつの街に逃げた方がいいのかな。でも、でも……。
「――ノラ!」
私の前方で手を振る人影が。
この名前で呼ぶのはひとりしかいない。
「やっぱりノラだ。仕事は?もう終わったの?」
目の前には買い物袋を持ったサク。
「見て見て。ねんねこストラップ全種類でたよ」
嬉しそうにそう言って、猫のストラップを私に見せる。
「ノラにもあげるから一緒に付けよう……ノラ?」
でもね、この街にはサクがいるから。
この街には大切な人がいるから。
だからもう私は逃げたくないよ。