黄昏バラッド


気づくと外は真っ暗になってて、校内には私たちと限られた人しか残っていなかった。


『ありがとう。助かったよ。お礼に駅まで送って行くよ』

『べつに平気です』

私は断ったけれど危ないからと言われ、先生の言葉に甘えることに。

先生の車は黒いワゴン。車内では流行りの曲が流れていた。


『北原ってお喋りなほうじゃないよな』

なにを思ったのか先生は運転しながらそんなことを聞いてきた。


『べつに普通です。ただ……』

『ただ?』

私は暗い車内で通りすぎる街灯をぼんやりと見つめた。


『ただ男の人の車に乗ったのは初めてなので、なにを喋ったらいいか……』

言ったあとで後悔した。

だって先生は教師なわけで、男の人と認識するのはおかしいことだから。


『はは、俺もこの車に女の子を乗せたのは北原が初めてだよ』

私の緊張をほぐそうとしてるのか先生はそう言った。


高校1年生。

中学校とは違い、男女を意識する年齢。

今まで恋や異性と親しくしてこなかった私は、
先生の言葉に少しドキドキしていた。


車は進み、駅に着く手前の赤信号。

この信号が青になったら駅に着く。

そしたら車を降りて先生にお礼を言って、それで終わり。

信号はなぜかとても長くて、永遠に感じるくらい。


『北原』

名前を呼ばれ横を向くと、先生は私にキスをしていた。


それはたった一秒のことで、私の世界を変えた瞬間だった。

< 166 / 270 >

この作品をシェア

pagetop