黄昏バラッド


暫くして女子高生たちが帰り、サクが私の元に来た。


「また追っかけとか言われるから離れたの?」

サクはもう普通のサクに戻っていて、私をからかってくる。


「……違うよ。ただ邪魔だと思って」

私は少し不機嫌そうに答えた。


「なに言ってんの。ノラは邪魔じゃないでしょ」

やっぱりいつものサクだね。でも今はなんとなく嬉しくないよ。

私は考えるように無言になったあと、空気を変えるようにジュースをサクに渡した。


「はい、これ」

冷たかったジュースは私の体温で少し温かくなり、水滴がポタポタと垂れていた。
 

「なにこれ?」

「なにってオレンジジュースだよ」

私は無理矢理サクの手に渡して自分のジュースを一口飲んだ。


「そういえば前に鉄さんが言ってた。サクが私にオレンジジュースをくれたのってサンセットで働いてた女の子が……」


なぜか言葉の続きが出てこない。

だって隣にいるサクの顔が……。

サクの顔が私の見たことのない顔になってた。


「サ、サク?」

そう呼び掛けるだけで勇気が必要だった。

サクが受け取ったオレンジジュースの水滴がどんどん溶けていく。


サクがトワイライトに戻らない理由。

サクが咲嶋亮を捨てた理由。


私はね、サクの中心はずっと音楽だって思ってた。

歌もメロディーも歌詞もサクが生み出して、サクが奏でてるって思ってた。

でもサクの中心は音楽なんかじゃない。

サクの心の真ん中。

一番大切な中心には……。

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