黄昏バラッド

:新生活



「……すみません。バイト募集の貼り紙見たんですけど」


私はレジにいた店員に声をかけた。偶然にもその人は店長だったらしく、気さくに応対してくれた。


「ああ、学生さんだよね?履歴書は持ってきた?」

年齢は50歳半ばだろうか。あまり怖くなさそうな男の人で少し安心したけど……。


「……いえ、今日は持ってきてません」

そうだよね、履歴書の存在をすっかり忘れていた。


「じゃあ、後日持ってまた来てくれる?学生さんだからちゃんと保護者の人にもサインもらってね」


保護者?保護者って親だよね?

今までバイト経験はなくて、その認識の甘さにやっと気づいた。働きたいと思っても簡単に叶うはずがない。

保護者という立場ではサクが今の状況だと当てはまるんだけど……まさかサクに書いてもらうわけにはいかないし。


「あと、採用になったら通帳と印鑑も必要になるから一応用意しておいてね。えーと名前聞いてもいいかな?」

「………」

子ども扱いされたくないけど、私ってつくづく子どもだね。無知というか、無計画というか……なんか恥ずかしい。


サクに迷惑かけたくないから働こうと思ったけど家にも帰れない、身分を証明するものもない私がなにかを始めようとすることなんて不可能に近い。


「……すみません。ちょっと考えます。本当にすみません」

私はうつ向いて逃げるようにコンビニを出た。
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