私を壊して そしてキスして

そろそろお昼休みという頃、平井社長が、営業部に入ってきた。


「みんなお疲れ―」

「お疲れ様です。ランチのお誘いですか?」

「誰がお前と」


橋本さんと平井さんの掛け合いは、いつもみんなの笑いを誘う。


「今日は、副社長を紹介する」

「副社長?」


上田さんが、思わず声を上げる。
そういえば、まだ小さいこの会社には、そういう人はいなかったけれど。


平井さんの後ろから、顔を出したその人は、私を見て微笑んだ。


「柳瀬です」

「柳瀬さん! やっと来る気になったんですね!」


上田さんの声が、大きくなる。


「ああ、こいつがうるさくてな」

「お前、社長に向かってこいつとは」


笑い声が飛び交うその場所で、私だけが茫然と立ち尽くしていた。



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