私を壊して そしてキスして

彼に半ば強引に腕を引っ張られて、その店を出た。


「お前、まともに歩けないじゃないか」

「あはは」


こんなことになっているのがひどく情けなくて、泣きたくなってしまう。

結婚退職のはずなのに、退職しても結婚するあてのない私。
これから、どうすればいいんだろう。



「ったく。最後まで手を焼かせやがって」

「すいませ……」


その時、丁度前を通りかかった人が、一瞬彼に見えてしまって……。


「イヤッ」


激しい動悸が私を襲う。
それに耐えられなくて自分の胸のあたりをギュッと握ると、驚いた柳瀬さんが私の脇に手を入れて支えてくれた。



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