私を壊して そしてキスして

「わざわざ上司の方が。菜那がお世話になりました」

「いえ、香坂君はとても優秀で、私の仕事も見事にサポートしてくれました」


そんな当たり障りのない会話から始まる。


「彼女はとにかく仕事が早くて助かりました。
期日までに遅れたことは一度もありませんでしたし、私が忙しいときは、何も言わずとも裏方の仕事を引き受けていてくれたりして、本当に仕事が楽でした」

「へぇ、菜那がそんな……」

私の仕事のことなんて少しも知らない父が驚いている。
翔梧さんの言い回しは、大げさすぎるとは思ったけれど。


「営業先でも評判がよく、私だけでいくと香坂さんはどうしたなんて聞かれて」


私の会社での話を、真剣にしてくれる彼。

そんな風に見ていてくれたのだと思うこともたくさんあって、なんだか恥ずかしくなる。



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