くだらない短編集
羊とハイエナ



■羊とハイエナ

羊は木陰で昼寝を貪ろうとしていたハイエナに何の警戒心もなく近寄ってくると、やあやあ、と声をかけた。彼は傲慢でも、強靭なわけでもない。では何故、目の敵である筈のハイエナに声を掛けたのかというと、ただ純粋に羊のお頭が悪かっただけなのである。

「俺の仲間がいなくなってしまったんだ。どこにいるか知らない?」

ハイエナは、瞼を持ち上げると興味なさげに羊を見つめた。そのときは運良くハイエナの腹は鹿の肉で膨れていたのである。なので、格好の獲物が眼前にいるのにも関わらず、睡魔に従って、その重い瞼を閉じたのだ。

「ねえねえ、寝ないでよ」

ととん、ととん、と最初の内は蹄の音が名残惜しげに周りから聞こえてきていたが、暫くすると静寂が訪れた。帰ったのだろう、曖昧になる思考の中で考える。だが、その考えは早々に打ち砕かれた。柔らかいふわふわとしたものが、寄り添ってきたのだ。これには流石のハイエナも驚いて瞠目する。白い体が、彼の横で同じように寝そべっていた。
ハイエナは考える。腹が減ったときに食べれば良いか、と。そうして、草むらに顔をうずめ、二人揃ってすやすやと寝息をたてはじめた。



翌日も、羊はハイエナの側にいた。ハイエナは付いて来る羊を複雑な想いで見つめる。空腹になれば食事に困ることはないが、美味そうな餌を前に、堪えることはできないものだ。

「ねえねえ」

ちょろちょろと視界のまわりを動く羊に苛立ちを覚えながら、ハイエナは森の中を歩く。

「ハイエナさん。ハイエナさん。あなたの牙は愛らしいね」

苛々に我慢ならなくなって、ハイエナは羊を地面に押さえつけた。首もとを甘噛みして、頭部を地面に縫い付ける。威嚇をしようと喉を鳴らせば、何故か彼は、雀のようにくすくすと笑い出した。

「ごめんなさい。そうじゃないんだ。あなたの牙は強そうだけれど、どうしてかな、とても愛しくなって」

なんだか、胸の奥がうずうずとしたので、ハイエナは居心地の悪さに羊を離した。病気だろうか。悪い虫でもいるのだろうか。動揺するハイエナを余所に立ち上がった羊は、ふふん、と笑うと自分勝手に歩き出した。
そうして、そんな他愛もない日々は繰り返される。羊は相も変わらずハイエナと共に森の中を進む。とある日、昼が訪れる頃、羊は寝転がるハイエナに身体を擦り付けていた。もふもふの毛に体を擽られ、むず痒い感覚に襲われる。

「なにをしているんだ」
「俺のものって、つけているの」

ハイエナは不機嫌を露わにする。

「お前のものじゃない」

羊は頑なに、おれのもの、と言って譲らない。もうどうでもよくなって、ハイエナは瞼をゆるりとおろした。空腹にお腹がなったけれど、どうも日差しが気持ちよくて、眠くなってくる。

「ハイエナさん、寝てしまうの」

そっとハイエナの側に寄り添う、やわらかいからだ。昼寝から起きたら食べればよいのだ、とハイエナは何日か繰り返される数回目の言い訳をして、深い眠りに落ちていった。



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