バイナリー・ハート
 ランシュが来るまで、ロイドは何も変わりはなかった。
 結衣に話せないという事は、ランシュに関係する、科学技術局がらみの事かもしれない。

 不安や悩みは、誰かに話せば、たとえ解決しなくても、少しは気が楽になる。

 自分がその誰かになれない事が、もどかしかった。

 ロイドは局長なので、部下に愚痴を聞かせるわけにはいかないだろう。
 きっと科学技術局内にも、そういう事を話せる相手がいないはずだ。

 ひとりで抱え込まなければならないロイドを思うと、胸が痛んだ。

 掃除が終わると、少しして洗濯機が終了のアラームを鳴らした。
 結衣は洗濯物を持ってバルコニーへ出た。

 洗濯機には乾燥機能も付いている。
 日本のものよりも、衣類を傷めず短時間で乾くのだが、やはり天気のいい日は天日干ししたい。

 それに、ロイドに抱きしめられた時、シャツにこもったお日様の匂いに包まれると、なんだか温かくて、ほんわりと幸せな気分になる。
 それが結衣の密かな楽しみのひとつだった。
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