大地主と大魔女の娘


 返済の意思はあるのかと訊いたら、あるとはっきり答えた娘。

 その深い夜闇を湛えた瞳を逸らさずに言い切った。

 気に入った。

 それは俺の元に留まり仕える気があるのだという意思表示だと解釈した。


 それなのに、娘は森へ帰るのだと言い出した。

 不可解に思い尋ねれば、ますます頑なに自分は魔女であるからと言い張るのだ。

 全くもって理解できない。

 魔女はどこにいようと魔女だろう。

「おまえは働いて返すと言ったではないか」

「はい。だから、森に帰らないと材料を用意する事もままなりません」

「何か必用な物があればこちらで用意させる」

「それでは意味がないのです」

 そのような堂々巡りを繰り返すうち、段々腹が立ってきた。

 元より気が長いほうではない。

「税を納めずにいた者の土地は元より、家もこのロウニア家の所有物だろう。おまえはどこに帰ると言っているのだ?」

 隙あらば這いずってでも、戸口に向おうとする娘の両手首を掴みあげる。

「森に……あそこが私の生きる場所」

 なのに、と娘は心底悲しそうな呟きを漏らした。

 堪え切れ無くなったらしく、涙が溢れ頬を伝った。

 夜闇から零れる雫であっても、透明なそれは夜露を思わせた。


 静かに涙を溢れ続ける姿に、何がもうそんな事を繰り返さないようにするだ、と思った。

 どの口がそれを言う。

「おまえみたいな者が泣くと腹が立つ!」

 思わず大きな声が出てしまっていた事を、悔やんだがそれは後悔でしかなかった。


 要するに、遅かった。

 出す前に悔やむべきでなければならなかった。

 気がついても、次回に実行を回すしかない反省点だった。

「っ、ぅ・・・えっぅく――!」

 恐怖に歪んだ表情のまま、少女は盛大にしゃくり上げた。

 小さな獣が仕留められ最期の時に上げるような声は、こちらの胸までが締め上げられる。

 泣かせたのは俺で間違いが無い。

「泣くな!」

 狼狽がそのまま声に現れていて、情けない事この上なかった。

 もちろん少女は泣き止まない。
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