大地主と大魔女の娘
 
 何べんも繰り返した物語。


 これからも繰り返される物語。


 それを地主様とやる事になるなんて、人生何が起こるかわからないものだ。

 おばあちゃんはよくそう言っていた。本当にその通りだ。


 地主様が神様役をやり、大魔女の娘が巫女役だなんて。

 誰が想像しただろう。


 私と目線を合わせてしゃがんだままの地主様は、よく打ち合わせておこうと仰った。

 そこは素直に頷く。

 何としても成功させなければならない。


 意地なんか張っている場合ではないのだ。


 地主様はよく聞き取れない、発音の僅かな差にまで耳を澄ましていて、何べんも言うよう促がされる。


 だから何回も繰り返した。


 不備があってはいけない。


 急な割にはどうにかお互いサマになっていると思えた。

 だが地主様は慎重だ。

 本番直前まで、出来る限り練習する気のようだ。


 何回か繰り返した後に「気持ちがこもっている様に聞こえない」と文句をつけ出した。


 どうしろと言うのだろう。


 気持ち――。

 言葉に託す想い。


 演技力を私に求められても、と思う。


 その旨を伝えると、地主様はむっすりとしてしまった。


 気難しい。

 それに地主様こそ棒読みだ。


 そう言ってやったら、ますます機嫌を損ねたみたいだった。


『おまえが気持ちを込めて言わないから、こちらだってやりにくい』


 あくまで私のせいだと主張される。


 そんな事を言われたってどうにもならない。



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 それでもお互いに譲歩しあって、お役目をまっとうしようと誓い合った。


 楽しみにしてくれている村の人のためにも、心を込めて行う。


 何より村の代表として、森に感謝を捧げる役には違いないのだから。



 気が付けば大きな手と手を取り合って、二人で祈りを捧げていた。


『この森の恵みに感謝いたします。どうか女神よ、お力をお貸し下さい』




 敬虔な気持ちで臨まなければ、感謝の気持ちもきっと伝わらない。


 言い争いはお祭りが終わってからでいい。



 太鼓の音が一際おおきく高く、ふたつ、鳴り響いた。


 全ての準備が滞りなく済んだのだと、それは告げているかのように聞こえる。


 お祭りが始まる。


 

 さあ、位置につこう。






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