大地主と大魔女の娘

引かれた一線


 衝撃を受けている。

 思いもよらない人からの言葉は特に、無防備でいた分切り込まれてしまう。

 あのあと、どうやって退出したのか、あんまり覚えていない。

 ただ、リディアンナ様のあたたかな指先だけが、頼るすべてだった。


「姉と兄を頼ってね」



 兄?


 ジルナ様を姉と、地主様を兄として頼れと、言われても答えようが無かった。

 知らず知らずのうちに、唇を引き結んでいた。


 一線を引かれた気がした。


 それはそれはきっぱりとした、線だった。

 私が、地主様を一人の男性として見ることを、牽制する。


 確かに私は持参金も用意できないし、はたから見たら地主様にとって何の利益も無いだろう。

 自分の立ち位置が解らなくなるのが怖くて、必死で大魔女の娘だと言い募ることしかできないでいる。

 何かそれで役に立てたか、と問われても首をひねるしかない。

 それにしたって、とやり切れない怒りをどうしたって感じてしまう。


 いつの間に地主様の家の子になったんだろう。

 それこそ子猫の扱いと一緒だと思う。

 もらったり、もらわれたり。そんな扱い。

 だから、あの人から「子猫を見つけた」と言われてしまったのだろうか?

 イヤミを込めた例えとして。

「……。」


 今更ながらあの時の、いい知れぬトゲを感じてしまっている。

 あの場では知らぬふりをしてやり過ごしてみたものの、実際にはチクリとやられたものだから、どこかにトゲが引っかかったままのようだ。


 チクチクと小さく疼く、胸元を押さえた。


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