大地主と大魔女の娘
「まずは謝らせておくれね、お嬢ちゃん。あんたがどこの誰かも知りもしないで、期待させるような事を言っちまってさ」
謝らねばならないのはこちらの方だ。
慌てて頭を下げた。
「いいえ。そんな事ありません。むしろご面倒お掛けして申し訳ないです」
「なあに。何てことないよ。よしとくれ!」
「本当に親切にしていただいて、すごく、助かりました」
ありがとうございますと頭を下げる。
上げた時には、涙も一緒に飛び散っていた。
せっかく良い人たちと出会えたのに、残念でならなかった。
「ああ、ああ! 泣かないでおくれよ。悪く思わないでおくれね、お嬢ちゃん。うちみたいな平凡な菓子屋が、地主様の所のいいこを預かる訳には行かないんだよ。あんたも薄々気が付いちゃいるだろう? さっきの色男みたいなのから、身代金目当ての不埒者にあんたを攫われたら、うちはどう責任負ったらいいんだい!?」
堪えきれずにまた泣き出す私に、おかみさんは辛抱強く言って聞かせてくれる。
「旦那っと、地主様は最後の手段としてご自分の身分を明かされたんだよ。そうでもしなけりゃ、お嬢ちゃんはウチの子になっていたもの。地主様はそれがお嬢ちゃんのためにならないとお考えになったから、そうしたんだよ。あんたが思うよりも、地主様はあんたを大事にしておられるよ」
優しい。お母さんみたいだ。そうか。ルボルグ君のお母さんだったな、と思いながらただ聞いた。
「また必ず遊びにおいで。抜け出してじゃなく、地主様とご一緒にだ」
おかみさんが優しく髪を梳いてくれる。
正直、一緒は不可能だと思ったが黙って頷いてみせた。