整った その造形を崩し切れずに笑う、

貴史の顔が、頭から離れなかった。


見た目は綺麗で格好 良くて、中身は時々 可愛くて、

明るくて優しくて面白いのに、

どこか謎な、男の子。


まだ知らない面が、たくさん あった。


少しずつ見せてくれて来たから、

これからも少しずつ、知らない面を知って行けると、思っていたのに。




本人に″行かないで″と言えたら、

少しは楽に なるのだろうか…


その答えを考えよう として、

和は今、自分が病院に居る事を、思い出した。


思い出した所で悲しみは癒えなかったし、

これから どうすれば良いのかも分からなくて、

和は その場を動く事も、話す事も、出来なかった。


そんな和を見兼ねたのか、

今まで ずっと黙って和を見ていた香澄が、口を開いた。






「変な事 言って、ごめんね」




「…………」




謝られても、何も言えない。


うまい答えも思い付かずに黙っている和に、香澄は更に続けた。






「でも、いつかは、確実に居なくなるんだ。


だけど それを、

和ちゃんには、話しておかなきゃ いけない って、思った」






なぜ それを 自分に話そうと するのか、よく分からない…

しかし それを疑問に思っても、進んで話を聞く気には なれず、

考えること自体を放棄したいような気分に駆られた。





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