花
「…ごめんね。
まさか、あんなに早く帰って来るとは思ってなくて…」
暫くして、
香澄が本当に申し訳なさそうな顔をして、和に謝った。
和は、香澄を責める気など さらさら なかったし、
そもそも香澄の所為だとは思っていなかったから、
逆に戸惑ってしまった。
「そんな…謝らないでください」
和が そう言うと、
香澄が躊躇いながらも、少し笑ってくれた。
貴史とは また違った安心感を与える その笑顔に、空気が和んだ。
「…あの…、
宗谷くんの、話…」
「え?」
暫くして、そう切り出した和に、
今度は香澄が少し戸惑っているよう、だった。
「でも、和ちゃん…」
「宗谷くんは…多分 私が事情を知っていても知らなくても、
追い掛けたら、
今みたいに上手く かわして逃げると思います 笑
だから宗谷くんに とっては、
私が事情を聞くのも聞かないのも関係ない。
ただ私が…、
宗谷くんの事を全部 知りたいだけ、なんです」
何かを言い掛けた香澄を遮って、和が言った。
それに本人の気持ちを置いておけば…貴史には、
全てを知って、それを受け止めて、追い掛ける″誰か″が、必要なのだと 思う。
その″誰か″に なれるのが、
今の時点では、自分しか居ないかも しれない。
その気持ちが、和を強くした。
和の強い意志を汲み取ったのか、
香澄も それ以上 反論しよう とは しなかった。
ただ少し、考えるような素振りを見せてから、
ゆっくり と 話し始める。
「…………分かった。
じゃあ、これから話す事を、落ち着いて聞いて欲しいんだけど…、
…大丈夫?」
「………はい」
そして和が頷いたのを確認して、更に こう続けた。
「えーと…、じゃあ まず始めに言っておきたいんだけど…
…貴史と俺は、同一人物なんだ」
「…へ?」