花

…あなたは本当に、皆の記憶を奪って行ってしまったの…？


そう言えば、

今日は皆に姿が視えていないのかも しれない って、あなたは そう言った。


でも……。




私は ふと思い付いて、携帯を取り出した。






「ちょっと、ごめん」




君に そう言って、電話帳から凛ちゃんの番号を呼び出すと…






「もしもし、凛ちゃん！？」




数回の呼び出し音の後に聴こえた凛ちゃんの声に、被せるように話し掛けた。






「…和ちゃん、どうしたの？？」




病院に居るのか、凛ちゃんの声は いつもより小声だったけれど、

私を心配してくれて いるような声音は、いつもと変わらなかった。






「凛ちゃん…、宗谷くん って…

″宗谷 貴史″くん って、

知ってる よね…？」




逸る気持ちを抑えて、恐る恐る訊いてみた。


…凛ちゃんの答えは、

どこかで予想していた答え、だった。






「…うん？


ちょっと知らないなー。




何？


その人が どうしたの？？」






「ううん、何でもない…」






携帯を握り締めたまま、

私は君が そこに居る事も忘れて、その場に立ち尽くした。