シュガー&スパイス

その日の帰り。
会社を出ると、空はどんより重たい雲を広げていた。


わぁ、やな天気……。
雨降るのかなぁ

朝の天気予報では、曇りのはずだった。


ふわり


ビルの谷間を吹き抜ける風の中に、湿った雨の匂いがした。



急いで帰ろう。
傘も持ってないし。


あたしは鞄を肩にかけ直して、駅に向かって足を進めた。



行き交う人達も、きっとあたしと同じで家路を急いでいるようだ。

みんないつもより忙しない。


秋口の今、あっというまに陽が落ちてしまった。
曇っていたのもあって、あたりはすでに街灯がともり始めている。


たくさんの人で溢れている駅前のロータリーに差し掛かった時、突然声をかけられた。



「菜帆!」



え?……あ……。



振り返ると、そこにいたのは英司だった。



「お疲れ。今帰り?」

「あ、うん。えと……佐伯さんも?」

「……はは。俺は取引先から会社に戻るとこ」



忙しいんだよね。


いつも通り、ピシッと着こなされた品の良いスーツ。
手には、しっかりと傘が握られている。

さすが英司だな……。

そんなことをぼんやりと考えてしまった。



と、その時。

英司は高そうな腕時計を確認すると、またあたしの顔を覗き込んだ。



「そうだ、今から飯でもどう?」

「えっ」



ご、ごはんっ!?

< 255 / 354 >

この作品をシェア

pagetop