シュガー&スパイス


ハッと顔を上げると、優しく微笑む英司と目が合う。

尖った顎。
薄い唇。
スッと通った鼻筋。

キレイな、英司の切れ長の瞳。

その奥が、ふわりと笑う。


ドキンって、胸が泣いた。



「やっと、俺の“イイワケ”聞いてもらえた」

「英司……」


ははって笑って、英司はビールをコクッと口に含む。


「でも……菜帆が俺を責めて、罵ってくれてたら、もっと楽になれたんだと思う」

「え?」

「そしたらがむしゃらに、死ぬ気で解決方法探してたかも」

「……」


また黙ったあたしに、眉を下げて「冗談だよ」って目を細めた。

それから、こう続けた。


「……友里香の事は好きだよ。昔から妹みたいだと思ってたし。
恋愛対象として、見る努力はしてる。
友里香の方も、俺がそう出来るように、何かと手を尽くしてくれる」


友里香さんの気持ちも、ちゃんとお見通しなんだ……。
やっぱり英司ってすごいな……。



「クリスマスに、式を挙げるんだ」

「うん、知ってるよ。友里香さんが嬉しそうに言ってた」

「……はは。そうか」



ガラガラ

ひっきりなしに、店内の客が入れ替わってる。
それもそうか。
ここは立飲み屋。そんなに長居する場所ではない。


入ってくるお客さんの会話で、やっぱり雨が降って来たみたいだった。


あたしはそれに耳を傾けながら、英司が残りのビールを飲み干すのを待った。



ジョッキをカウンターに置いたら、英司は「店を出よう」と言うだろう。


それが、きっと合図なんだよね。

これが最後だって。

そう言う合図。


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